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◆ シリンダー・オルゴールを買うとき #1 ( 故障 ) ◆
Essay019 掲載 2006/1/27
友人からのを買いたいとの相談を受けました。彼女は骨董品を買うのは今度がはじめて。そこでサイト・オーナーは彼女にシリンダー・オルゴールでは聞ける曲数が少ないとか、聞きたい曲を選ぶことは極めて困難であることなどを説明(つまり私の趣味を押し付けた?)しましたが、美しいとか繊細なに心を動かされた彼女は方針を変えそうにありません。このレポートはアドバイスをする折に作ったメモに加筆したものです。サイト・オーナーは残念ながらアンティークのシリンダー・オルゴールを買ったことがありません。このレポートは今までたくさんシリンダー・オルゴールを聞いた経験と多くの参考書からの知識を組み合わせたものです。文中に出てくる部品の名前などは参考図面「」と「」を参照してください。ここで論じるのは標準的な大きさのオルゴールを対象としており、小型のオルゴール(やごく初期の小型のもの)は除外しております。
に関して。 まずシリンダー・オルゴールを見るとき最初に目に入るのは当然ながらそのケースです。初期(1810〜1840)ののオルゴールのケースは何の飾りも無い単なるプレーンな木製の箱です。後に蓋の周囲が丸く仕上げられるようになりました。ケースの内側は赤く染められている場合が多いです。ガラスの内蓋がケースの内側に取り付けられるのはかなり後になってからです。初期はスタート・ストップ・レバーなどがケースの左側に飛び出していましたが、後にケースの左側がで区切られてその中にコントロール・レバーが隠され、その外側はエンド・フラップで隠されるようになりました。初期のケースには底面に足が付いていません。
後期(1870〜1920)のケースにはいろいろな装飾がつけられるようになりました。最も安価なのは木目がわかる塗装(による)で蓋の上にデカール( decal 移し絵、転写紙 )や紙で模様が付けられています。次いで蓋に楽器や花の(薄い木片を埋め込んで絵を描く技法)ややストリンギングが施されているものが作られました。このクラスが最も多く作られました。最も高価なタイプは美しい木目を持った南洋で採れる木材のをケースの周囲に貼り付けたものです。やパイラード社に良く見られるのですが、無垢のマホガニーやオークに彫刻を施したものも作られました。
大きなサイズで立派な装飾を施されたケースは良質のが収容されている可能性を示すだけであって、必ずしも音楽的に優れたオルゴールではないという場合もあります。
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普通のシリンダー・オルゴールではが左端にあって次にと、そして右端にがあります。この順に起こりそうな問題を述べていきましょう。
。 ガバナーはウォームギア(ピニオン)と羽根()がつけられたウォーム()から成ります。ガバナーの役割はの回転を等速に制御することです。よく起こる問題はスタート・レバーを引いてもスムーズに演奏が始まらない、またはシリンダーがまったく回転を始めないことです。この場合、そっと優しくガバナー・ベーンを指で弾くと演奏が始まる場合もあります。 原因はガバナーの軸受けにあるジュエル・ストーンの磨耗、エンドレス・スクリューの軸端部の磨耗、ウォームかピニオンの磨耗が考えられます。これらは半完成の部品(機械加工が必要)として販売されているので、磨耗しているものは交換します。 もしガバナーが失われているのであれば新しく作ることも、経験のある技術者ならば可能です。ガバナーに大きな問題を抱えている場合は、不用意に操作をすると(暴走してオルゴールを全損にしてしまう)を起こす可能性があるので十分に注意をしなければなりません。ガバナーに問題が見られる場合の操作はオーナーに任せましょう。
。 折れた櫛歯やはで隠れている場合がよくあります。必ずチター・アタッチメントを上げてよく観察しなければなりません。折れた櫛歯は目立ちますが先端のチップは小さな部品ですので、折損を見逃すことがあります。櫛歯を横から見ると細い針金でできたワイヤー・が見えます。折れた櫛歯、チップやダンパーも交換は容易ですが、破損している数が多いと根気の必要な長時間の作業となります。櫛歯は曲(で管理されていました)毎にが異なるので、櫛歯全体を交換することは不可能です。 過去に(重故障です)があった場合は修理の過程で櫛歯、チップ、ダンパー、ピンの多くが取り替えられております。櫛歯の調律がきちんと修復されているかは、そのオルゴールの演奏が音楽になっているかどうかを注意深く聴いてみないとわかりません。狂っている調律(オルゴールの個体毎に異なる)の復元というのは、和声の知識や経験が必要な根気の要る大変な作業です。
櫛歯の錆がひどい場合は、錆を落とす(削る)過程で櫛歯が軽く(特に小型のメルモード社製で細い櫛歯の場合)なって調律に悪影響を及ぼしている場合があります。錆が原因で、何もしていないのに突然チップが折れるという事故が起こることがあります。光り輝いている櫛歯は調律に注意を払って研磨されたかどうか要注意です。
櫛歯の下にぶら下がっている(レゾネーター)が錆びる(酸化する)と白い小麦粉のようなものに変化します。ひどい場合はチューニング・ウエイトがすべて白い粉に変わり櫛歯の下に落ちてしまっている場合もあります。錆がひどくなると隣り合ったチューニング・ウエイト同士が曲がって接触( いわゆると呼ばれる現象 )している場合もあります、この場合は音が出ません。チューニング・ウエイトの曲がりを修正するのは折れ易くなっているため困難です。チューニング・ウエイトがひどく損なわれている場合は鉛の大きなブロックを櫛歯の下側に半田付けしてから、切断し調律をやり直すという大掛かりな作業が必要です。少しの酸化でしたら細かいサンド・ペーパーで簡単に落とせます。
櫛歯の先端の磨耗は櫛歯を取り外して裏返しに置いて、先端部分の裏側を拡大して見ないとよくわかりません。磨耗がひどい場合は小さなクリック音のような雑音が聞こえます。これを修理するには櫛歯の先端をほんの少しずつ研磨しなければなりません。極めて緻密な作業を要求されますし、失敗すれば櫛歯の全ての調律を崩していまいます。
櫛歯を横から見ると細い針金でできたワイヤー・が見えます。ダンパーが破損しているかまたは失われている場合、新しいダンパーと交換しなければなりません。ダンパーが効いていないと、そこにピンがきたときにギッとかキッと言うような大きな雑音を出します。ダンパーの交換は容易ですが、破損している数が多いと根気の必要な長時間の作業となります。
。 シリンダーのの状態をよく観察しなければなりません。ごく狭い範囲の一部分だけピンがまとまって曲がっている場合がありますが、よく観察しないと見逃してしまいます。 断続的に多数のピンが曲がっている場合は、そのオルゴールは過去にランが起こったと推定されます。ランが起きた時に曲目チェンジ・レバーがチェンジに位置にあれば全ての曲のピンに損傷が見られます。曲目チェンジ・レバーがリピートの位置になっていた場合はランの被害は1曲分だけにとどまります。 櫛歯のチップの強度とピンの強度に大きな差があると、ランが起こったときにどちらか弱い方だけ(完全な櫛歯とボロボロのピン、またはその逆)に損傷が見られることもあります。
原因はどうであれ曲がったピンを真っ直ぐに戻すことは、ピンが折れやすく(特に錆びている場合)極めて困難です。通常ピンの修理は全てのピンをするしかありません。部分的にピンを交換する方法はありません。アマチュアの人が大きめのピンで中途半端にリピンニングを始めて、シリンダーのピンの穴を広げてしまった場合は最悪で修理不能になります。
シリンダーの中に松脂、砂、シェラックニスなどを混ぜたと呼ばれるものを入れて蓋をしてから加熱して高速回転させ、シリンダーの内壁にセメントを遠心力で冷却固着させます。セメントはピンをしっかりと固定するためと、音質を改善(こちらのほうが主目的)するために入れられます。古くなるとセメントが収縮してシリンダーの内壁からはがれるという現象がよく見られます。セメントを熔かして流し込む時の温度が不適当に高い場合は泡や巣ができて、微かなクリック雑音の原因になる場合があるそうです。小さな金属片でシリンダーを軽く叩くとチェックできるそうですが、サイト・オーナーにはその勇気がありません。これの修理は簡単で、シリンダーをムーブメントから取り外して再度バーナーで加熱し、旋盤で高速回転をしながら冷却すればよいそうです。
あまり発生しないことですがシリンダーに予期しない力が加わって断面が正円でなく楕円になってしまった場合は、シリンダー1回転の間に2回音が強くなったり弱くなったりします。サイト・オーナーも一度このようなシリンダー・オルゴールを聞いた経験があります。これの修理は全てのピンをリピンニングしてから、精度の高い優れた旋盤を使って全てのピンの先端が同一の正円の軌跡を描くように砥石(オイル・ストーン)で研磨することです。
ピンも櫛歯も健全ですが演奏する音楽がメチャクチャな場合、または2曲同時に演奏しているような場合はかレジスター・ピンが磨耗しています。サイト・オーナーの持っている有名レコード会社のCDでこのような例(聞いていて呆れます)があります。この修理は容易な作業です、つまりスネイル・カムかレジスター・ピンのどちらかを嵩上げします。
で交換用のシリンダーが付属していない場合が時々見られます。この場合値段はかなり低くないといけません。交換用のシリンダーを新たに見つけるのは至難の業(ほとんど不可能)です。の場合だけは、ほんの少しだけ交換用シリンダーが見つかる可能性が残っています。
またはゼンマイ。 スプリング・モーターをテストするには一杯に巻き上げてみなければなりません。をしていないオルゴールでは危険な操作になるかもしれないので、オルゴールのオーナーにしてもらうべきです。もしスプリングが折れている場合、または軸からスプリングが抜け出している場合はカチカチという間歇的な音がして巻上げができません。修理の過程でスプリングが短く切られている場合もあります。スプリングの修理は危険ななので専門家の出番です。スプリングのグリスが固化したり無くなったりすると演奏中にスプリングが急に巻き戻るバチンとかジャリッとかいうような大きな音がすることがありますが、適当なグリスを補充すればいいでしょう。
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