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Page No.32
◆ 乞食と自動演奏オルガン ◆
E032 掲載 2010/2/26

 イギリスにMBSGB(Muasical Box Society of Great Britain)という自動演奏楽器の愛好家団体があり、私も加盟しております。この団体を紹介する記事を我がMBSI 日本支部の機関誌「自鳴琴」に掲載しようということで、いろいろと問い合わせを入れていました。先方は「関心を持っていただいて大変喜ばしい」という手紙と共に、最近発行された本を1冊サンプルとして送ってくれした。本の標題は“Street Musicians on POSTCARDS”「絵葉書に見る街頭の音楽家達」とでも訳しましょうか。
自動ピアノの周りを取り囲んでいるビクトリアン・ファッション
 内容はイギリスで1800年から1900年初頭(所謂ビクトリア時代)に流行っていた絵葉書の中で、自動演奏楽器をテーマとしたコレクションを紹介する書物です。当時イギリスの中産階級以上の人々は海岸などのリゾートに出掛けて、その印象などを絵葉書に書いて家族や友人に送ることが流行していました。セピア色で印刷された写真1は自動ピアノの周りを取り囲んでいるビクトリアン・ファッションを纏った人々です。女性はみんなボンネットを着用しています。
 写真2は街頭で>ストリートオルガンを演奏する乞食の男の子です。手回しオルガンに腰をかけた猿は空き缶を持って周りの聴衆からお金を徴収する営業猿です。まだ児童福祉の思想は無かったのでしょうか、貧しい男の子が裸足で立っているのに注目してください。ロンドンはメキシコ湾流という暖流の影響で暖かいのですが、それでも緯度は北海道の遥か北の樺太並み! 当時の人々はこの絵葉書をどのように見ていたのでしょうか? 私にはとても痛ましくて正視できない光景で、娯楽としての絵葉書には相応しくない絵柄と思います。でも解説によるとこの絵葉書はクリスマスカードとして記入され使われたもののようです。右上の楽譜はスコットランド民謡Auld Lang Syne(蛍の光)。乞食の男の子の衣装と猿はオルガンと共に、貸し元からレンタルしているものでしょう。さぞやピンハネが厳しかったことでしょう。ビクトリア時代の闇黒面を伝える人たちがいたからこそ、福祉国家へと舵をきったことでしょう。イギリスのビクトリア時代で、華やかでない部分です。この書物には同じような寂しそうな少年少女がストリートオルガンを抱えている絵葉書がたくさん掲載されています。ストリートオルガンの奏でる音楽がとても楽しいものだけに、その悲しさが強く印象に残ります。この本も同じように人の愚かしさを伝えてくれるのじゃないでしょうか。

当時の乞食の少年
自動オルガンのコレクター夫妻 写真3は現代の自動演奏楽器研究家、豊かなイギリスの貴族の方でしょうか?

 このような音楽の稗史にも目を向けねばならないと感じました。歴史は正史だけで成り立っていないのです。このMBSGBの機関誌「The Music Box」には、このような地味な労力を惜しまないとても優れた研究記事が掲載されています。

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