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カウンタートップ型 ( counter top style )
g021 G0203 掲載 2005/4/10

縦型のディスク・オルゴールの内、やや小型で左の絵のようにカウンター等の上に置いて(ビンを置かずに)営業用に使われたものもあります。これはカウンター・トップ型と呼ばれることもありますが、この用語はまだ定着していません。
 
カウンタートップ型ディスク・オルゴール
暖炉の上に置かれたPolyphon104
シンフォニオン社製Symfonion Automaten No. 106N カウンター・トップ型ディスク・オルゴール
ディスク・サイズ 48.5cm
出典 カタログ・リプリント Ernst Holzweissic Nachf 1898年 P7




暖炉の上に置かれたポリフォン104型。

撮影記録なし。



ガバナー ( governer )
g021 G0201 掲載 2005/4/10

この部品の形状や位置などについてはイラストG0053シリンダー・オルゴールのガバナーをご覧ください。
シリンダー・オルゴールのガバナーは下の写真で見られるように羽根(ガバナー・ベーン)のついた軸です。その役目は2つあり一つはシリンダーの回転速度を一定に保つことです。ピンが多くなってシリンダーの回転速度が落ちるとガバナーの空気抵抗が減って速く回転しようとします、逆にピンの少ない部分に来るとシリンダーの回転速度が上がって空気抵抗が増えて遅く回転しようとします。そのようにしてスプリング・モーターの力の範囲内で一定の演奏速度を実現できます。もう一つは演奏を停止しなければならない時に羽根に停止用の軸(ストップ・スプラグ)をガバナー・ベーンに当ててガバナーの回転を停め、演奏を停めることです。
ガバナーの羽根車
ムーヴメント左端手前のガバナー
中央の回転する羽根車がガバナー









ムーヴメントの左端手前にガバナーがある。

・  ポリフォン社
 ガバナーの羽根にはもう一つの一回り小さな羽根が細いコイルスプリングで取り付けられています。回転数が上がるとコイルスプリングが伸び、小さな羽根も広がって空気抵抗がより大きくなります。
・  シンフォニオン社
ガバナーの羽根の先端がリボンのように薄い真鍮の板になって丸く巻かれており、回転数が上がると丸く巻き込まれた羽根の先端が遠心力で広がって空気抵抗がより大きくなります。
・ ウインナ・スタイルのガバナー
シンプルな長くて平たい長方形のガバナーベーンが特徴です。

カリオペ社 ( Kalliope Fabrik Mechanisher Musikwerke )
g021 G0205 掲載 2005/6/23

英語読みでカライオピーと発音される場合もあるようです。シンフォニオン社と同じライプチッヒ市郊外のゴーリスという町で操業していた後発のディスク・オルゴール・メーカーです。

カリオペ社では小型のテーブル・トップ型でセンタードームからスプリングモーターを巻き上げるシャフトが立ち上がっているものが作られました。これはカリオペ社の特許によるものです。またグロリオサ(Gloriosa)のブランドで小型ディスク・オルゴール付きのクリスマスツリー・スタンドを作っていました。カリオペ社の小さなテーブル・トップ型ディスク・オルゴールは他社のものとは違う大音量を持っています。

カリオペ社のオルゴールにはよくベルが組込まれていました。特に大型のベル付きアップライト型はベルの特性を生かしたすばらしい編曲のレパートリーを持っていました。この例は萌木の村が発売しているCDで聴くことができます。
華やかなベルの付いたカリオペのアップライト・オルゴール
競馬のゲームが組み込まれているカリオペのアップライト・オルゴール
華やかなベルの付いたカリオペのアップライト・オルゴール。
この写真は山梨県北杜市にある萌木の村博物館ホール・オブ・ホールズの好意で撮影したものです。









 
下半分に小銭を賭けて楽しむ競馬のゲームが組み込まれているアップライト・オルゴールです。
撮影記録なし。
David BowersのエンサイクロペディアのP108〜111にこの項目に関する写真や解説が掲載されていますのでご覧ください。

キー・ワインド ( key-wind )
g021 G0206 掲載 2005/9/1  改訂1 2016/1/28

シリンダー・オルゴールスプリング・モーターを巻き上げるには次の3つの方式が採用されていました。古いものから順に、キーを差し込んで回して巻く方式、ラチェットの付いたレバーを引いて巻く方式、クランク・ハンドルを回して巻く方式です。

シリンダー・オルゴールは時計から発達してきたものなので、当初は時計と同じキー( French clock winding key )をスプリング・モーターの軸に差し込んで、回して巻き上げていました。シリンダー・オルゴールが大きくなるにつれたスプリング・モーターも大きなものが要求されるようになり、それに伴ってキーも大きくなっていきました。キーは鋳造(溶かした金属を型に流し込んで作ります)で作られたものが多く、スプリング・モーターの軸に差し込む穴の断面は四角でした。キーの軸の穴はスプリング・モーターの軸に確実にはめ込む(タイト・フィット)ために軽くテーパー(奥に行くに従って断面が小さくなる)がつけられていました。キーの入手に関してはessay040をご覧ください。

キーのサイズは規格があり、番号で表現されています。Arthur W.J.G. Ord-Hume氏著 Schiffer Publishing Ltd刊行The「Musical Box: A Guide for Collectors」の136ページFig.49にその規格が掲載されています。リプロダクションのキーがアメリカのNancy Fratti 氏のPanchronia Antiquitiesから販売されていましたが、製造していた工房の廃業で供給されなくなりました。

キー・ワインドの例
キー・ワインドの例
キーを差し込むスプリング・モーターの軸は通常ケースの左側、エンド・フラップの内側にありました。使用していないキーはケースの右側にディバイダーと呼ばれる仕切りがあり、その中に収容されていました。
初期のシリンダー・オルゴールにはエンド・フラップがありませんでした。

 
巻き上げレバーがケースの左側にあります。


櫛歯  ( Comb ) 
g021 G0202 掲載 2005/4/10 改訂1 2014/3/25

この部品の形状や位置などについてはイラストG0051櫛歯イラストG0054シリンダー・オルゴールをご覧ください。

オルゴールは薄い金属の板をピンではじいて音を出します。写真に見られるように真鍮または鋳鉄でできた基礎( Comb base コーム・ベース )の上に薄い鉄に切り込みを入れた板( 当時の文献によればBest England Steelなんて書いてある文献があります。Graver-steelとも呼ばれていたようです。現代の材料では普通の工具鋼、高炭素鋼が近いでしょう )が半田付けされています。
櫛歯を裏から見たところ
櫛歯のイラスト
左は櫛歯を裏から見たところです。基礎( Comb base コーム・ベース )と櫛歯の裏側に取り付けられたチューニング・ウエイトが見えます。







左は櫛歯を横から見たところです。櫛歯の下に取り付けられたダンパーシリンダーに植え込まれたピンが接触しているところです。
オルゴール・メーカーの技術者から聞いた話ですが、スエーデンの重工業メーカーSandvick社製の23Pという鋼種が櫛歯の素材として良い結果を出しているようです。これにごく僅かに含まれている鉛(鋼材の強度を下げる元素で製鋼技術者からは嫌われています)が効いているようです。Sandvick社神戸支店に問い合わせた所、残念ながら同社ではもう生産していません。再度発注をお願いしても最低ロットが1トンでは!

鉛を含む鋼材としては鉛快削鋼が知られています。これは旋盤で切削加工をした時にキリコ(削りかす)が短く粒状に折れるもので、超高速切削ができるため採用されています。したがって鉛快削鋼は板材ではなくて丸棒の形で素材が販売されています。また有害な鉛の使用制限により、硫黄を含んだ硫黄快削鋼への転換が進みつつあります。

グスタフ・ブラッフハウゼン ( Gustave Adolf Brachhaaausen )
g021 G0207 掲載 2005/12/02

シンフォニオン社がライプチッヒ市( Leipzig )郊外のゴーリス( Gohlis )で設立され、そこに25歳のグスタフ・ブラッフハウゼンという技術者が雇われていました。彼は発明の才に富み2〜3年のうちに職長( first foreman )の地位にまで昇りました。グスタフ・ブラッフハウゼンとパウル・リスナー( Paul Riessner )は共にシンフォニオン社のオルゴールについてたくさんの改良を提案しましたが受け入れられることはありませんでした。
グスタフ・ブラッフハウゼンの若いころの写真です。 グスタフ・ブラッフハウゼンの肖像

1889年にグスタフ・ブラッフハウゼンはパウル・リスナーを伴ってシンフォニオン社を退社し、新たにディスク・オルゴールを生産するポリフォン社をライプチッヒ市郊外のワーレン( Wahren )に設立しました。ポリフォン社はシンフォニオン社をしのぐ勢いで拡大してゆきました。

グスタフ・ブラッフハウゼンは新しい有望な市場をアメリカに見つけましたが、当時のアメリカにはドイツ製品に対する高い関税障壁がありました。そこで彼はアメリカに行って現地生産をする決心を固めました。

グスタフ・ブラッフハウゼンがアメリカに到着して最初の1年間はジャージーシティ( Jersey City )でレジーナ社の設立や登記、アメリカにおける特許の登録などの準備作業に費やされました。早急に多くの技術者を必要としたのでヨーロッパから多く(60人以上)のスペシャリスト達を迎え入れました。その中で特に重要なのはシンフォニオン社からスカウトしたスイス人オクターヴ・フェリシァン・シャイエ( Octave Felician Chaillet )です。彼は音楽家、音楽教育家であると同時に、スイスのサントクロワ村ではシリンダー・オルゴールの編曲に活躍し、シンフォニオン社ではディスク・オルゴールのための編曲を手掛けていました。彼の娘はグスタフ・ブラッフハウゼンの配偶者となりました。

1896年にグスタフ・ブラッフハウゼンは営業用のオルゴールとしてオートマチック・ディスクチェンジを発明して特許登録を行いました。

1900年ごろにエルドリッジ・ジョンソン( Eldridge R Johnson )という人物が彼の発明品をデモするために訪れました。それはエジソンの発明したシリンダー型の蓄音器の不便な部分をなくす重要な発明で円盤型のレコードを使うものでした。ただそのときの音は大変ひどいものであったらしく、グスタフ・ブラッフハウゼンは彼を相手にしなかったようです。このことはグスタフ・ブラッフハウゼンとレジーナ社が巨大な音楽産業に乗り出す大きなチャンスを逃し、音楽産業としてのレジーナ社の生命を絶つ結果を導くこととなりました。

1903年はレジーナ社にとってもグスタフ・ブラッフハウゼンにとっても良くない年でした。会社は銀行の管理下に置かれグスタフ・ブラッフハウゼンは工場の管理者( factory manager )に降格されました。第1次世界大戦の終了と共にドイツにあった彼の財産は消滅し、彼の結婚は離婚によって終わりを告げました。1919年に彼は一介の工具職人または金型職人として働いておりました。

1924年には新しい経営陣が破産したレジーナ社にやってきて改革を始めました。グスタフ・ブラッフハウゼンは工員の地位を失い、退職するまでの残りの時間を夜警としてレジーナ社に奉職していました。彼が亡くなったのは1943年で享年86歳でした。

詳しくはEssay017グスタフ・ブラッフハウゼン 波乱の生涯を参照してください。


グラス・ドーム ( glass dome )
g021 G0208 掲載 2005/7/8

グラス・ドームとは下記の写真を見ればすぐわかると思います。実物はかなり大きく、単なるノヴェルティー・グッズとは言えないほどの立派な作品です。ベースの部分には小型の良質なシリンダー・オルゴールが内蔵されています。オルゴールから取り出した動力で人形や風車、汽車などを動かして楽しむものです。
グラス・ドーム
グラス・ドーム
これは典型的な形のグラス・ドームです。森の中でハープを演奏する女性の人形とリュートを演奏する男性の人形の状景が半球形のガラスのカバー(ドーム)で覆われています。ベースの部分にはシリンダー・オルゴールが組み込まれていて、オルゴールの演奏が始まると人形は楽器を奏でる仕草をします。
この写真はノフ・アンティークス・シェルマンの磯貝氏の好意で撮影したものです。




これはミュージカル・タブローとグラス・ドームの中間のような作品です。オルゴールの演奏が始まると右上の風車が回転し、鉄橋を古い汽車が渡り、港の帆船が揺れ、右下の滝の水が動くように作られています。
この写真は東京都文京区にあるオルゴールの小さな博物館の好意で撮影したものです。


David BowersのエンサイクロペディアのP83〜84にこの項目に関する写真や解説が掲載されていますのでご覧ください。

クリスティーズ ( Christies )
g021 G0209 掲載 2005/4/19

この用語に関してはオルゴール用語集の中にある「オークション」G0117の記事を参照してください。その記事の中では赤字でこの用語を表記しています。
BEH20.jpg イギリス Stratford on Avon from The Memorial Theaterの風景を掲載しています。

クリスマスツリー・スタンド ( Christmas tree stand )
g021 G0210 掲載 2005/6/15

オルゴールを応用したノヴェルティー・グッズの一分野です。下の絵のように台座から出ている回転軸にクリスマスツリーの幹を保持して、オルゴールを演奏(演奏なしで回転だけも可能)しながらクリスマスツリーをゆっくりと回転させて楽しむものです。シーズンオフにはクリスマスツリー・スタンドを取り外して回転する菓子皿などを載せて楽しめました。カリオペ社製のグロリオサが有名で、ベル付きのものも作られました。
クリスマスツリー・スタンドのイラスト
クリスマスツリー・スタンドの根元の部分
このようにクリスマスツリー・スタンドはディスク・オルゴールを内蔵しているものが多いようです。
出典 カタログ・リプリント Ernst Holzweissic Nachf 1898年 P256,257

このような大きなクリスマスツリー・スタンドは現在でもリュージュ社によって生産が続けられております。ただしディスク・オルゴールを生産する会社がもうありませんのでシリンダー・オルゴールを組み込んでおります。

David BowersのエンサイクロペディアのP109下左にこのGloriosaクリスマスツリー・スタンドに関する写真や解説が掲載されていますのでご覧ください。

ケース ( case )
g021 G0211 掲載 2005/4/16 改訂1 2014/3/25 

オルゴールのケースは単なる埃よけのカバーではなくて、共鳴箱という重要な部分品です。ムーヴメントだけで演奏した場合は音の大きさが驚くほど小さく貧弱なのに驚かされます。ケースの代わりに木の板にムーヴメントを押し付けただけでも、音がオルゴールらしい豊かなものに大きく変化するので実験してみてください。

ケースの素材は当時容易に手に入ったやわらかい木材です。どうも高級な木材(例 チーク)は音に対して良くない影響があったようです。オルゴール・メーカーの技術者に聴いた話ですが、ケースに向いた木材はスプルース(北米原産の米唐檜)、アガチス(東南アジア原産の南洋檜)、オバンコール(アフリカ原産)が優れているそうです。

初期のシリンダー・オルゴールのケースは何の飾りも無い単なる木製の細長い箱でした。後期になるにつれて商品価値を高めるために下記のようにいろいろと装飾が施されました。
マーケットリー   着色した木材の小片を組み合わせた花や楽器の絵を嵌め込みました。
パーケットリー   幾何学模様のマーケットリー。
ベニヤ        箱の表面に南洋産の綺麗な木目を持つ木材の薄板で覆いました。
           薄板だと音に対して悪影響を及ぼしません。
クロス・バンディングストリンギング
           染めた細い木材を埋め込んで縁取り模様にしました。
中には紙に印刷した派手派手な花の絵を蓋に嵌め込んだ安物のオルゴールがありました、これはいただけません。高価なシリンダー・オルゴールにはセーブル焼の絵とか真鍮の板を細密に切り抜いて作ったアラベスク模様、手の込んだ彫刻、複雑な形状の取っ手なども付け加わりました。
シリンダー・オルゴールのケース
アップライト・オルゴールのケースの例
標準的なシリンダー・オルゴール
蓋の中央にいろいろな楽器のマーケットリー、周囲に薄い色のストリンギングとバンディング
この写真は東京都渋谷区にある川上楽器の好意で撮影したものです。
左はチュートン様式のケース、古典派建築のようなデザイン。
撮影記録なし。
右はユーゲント・シュティール様式のケース、植物の持つ曲線をまねた当時流行の様式。ケースの上部透かし彫りとペディメントにその特徴がよく現れている。
この写真は京都市右京区にある京都嵐山オルゴール博物館の好意で撮影したものです。
ディスク・オルゴールでは歴史が短かったためかケースの様式に大きな変化はありませんでした。初期と中期にはチュートン様式という直線的な飾りの多い様式、後期(ごく短期間)にはその当時流行の曲線を強調したアールヌーボー様式が見られました。オルゴールのケースは木目を活かした仕上げがほとんどで、塗装したケース(この例はシンフォニオン社製)は極めて稀です。

これはケースのリストアを説明する動画です。

ケースについては語るべきことがたくさんあります。順次Essayで発表していきますのでお待ちください。